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樋口一葉「たけくらべ」7

さりとはをかしく罪の無き子なり、貧なれや阿波ちぢみの筒袖、己れは揃ひが間に合はなんだと知らぬ友には言ふぞかし、我れを頭に六人の子供を、養ふ親も轅棒にすがる身なり、五十軒によき得意場は持たりとも、内證の車は商賣ものの外なれば詮なく、十三になれば片腕と一昨年より並木の活判處へも通ひしが、怠惰ものなれば十日の辛棒つづかず、一ト月と同じ職も無くて霜月より春へかけては突羽根の内職、夏は檢査場の氷屋が手傳ひして、呼聲をかしく客を引くに上手なれば、人には調法がられぬ、去年は仁和賀の臺引きに出しより、友達いやしがりて萬年町の呼名今に殘れども、三五郎といへば滑稽者と承知して憎くむ者の無きも一徳なりし、田中屋は我が命の綱、親子が蒙むる御恩すくなからず、日歩とかや言ひて利金安からぬ借りなれど、これなくてはの金主樣あだには思ふべしや、三公己れが町へ遊びに來いと呼ばれて嫌やとは言はれぬ義理あり、されども我れは横町に生れて横町に育ちたる身、住む地處は龍華寺のもの、家主は長吉か親なれば、表むき彼方に背く事かなはず、内々に此方の用をたして、にらまるる時の役廻りつらし。正太は筆やの店へ腰をかけて、待つ間のつれづれに忍ぶ戀路を小聲にうたへば、あれ由斷がならぬと内儀さまに笑はれて、何がなしに耳の根あかく、まぢくないの高聲に皆も來いと呼つれて表へ驅け出す出合頭、正太は夕飯なぜ喰べぬ、遊びに耄けて先刻にから呼ぶをも知らぬか、誰樣も又のちほど遊ばせて下され、これは御世話と筆やの妻にも挨拶して、祖母が自からの迎ひに正太いやが言はれず、其まま連れて歸らるるあとは俄かに淋しく、人數は左のみ變らねど彼の子が見えねば大人までも寂しい、馬鹿さわぎもせねば串談も三ちやんの樣では無けれど、人好きのするは金持の息子さんに珍らしい愛敬、何と御覽じたか田中屋の後家さまがいやらしさを、あれで年は六十四、白粉をつけぬがめつけ物なれど丸髷の大きさ、猫なで聲して人の死ぬをも構はず、大方臨終は金と情死なさるやら、夫れでも此方どもの頭の上らぬは彼の物の御威光、さりとは欲しや、廓内の大きい樓にも大分の貸付があるらしう聞きましたと、大路に立ちて二三人の女房よその財産を數へぬ。

   五

 待つ身につらき夜半の置炬燵、それは戀ぞかし、吹風すずしき夏の夕ぐれ、ひるの暑さを風呂に流して、身じまいの姿見、母親が手づからそそけ髮つくろひて、