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樋口一葉「たけくらべ」5
柿色に蝶鳥を染めたる大形の裕衣きて、黒襦子と染分絞りの晝夜帶胸だかに、足にはぬり木履ここらあたりにも多くは見かけぬ高きをはきて、朝湯の歸りに首筋白々と手拭さげたる立姿を、今三年の後に見たしと廓がへりの若者は申き、大黒屋の美登利とて生國は紀州、言葉のいささか訛れるも可愛く、第一は切れ離れよき氣象を喜ばぬ人なし、子供に似合ぬ銀貨入れの重きも道理、姉なる人が全盛の餘波、延いては遣手新造が姉への世辭にも、美いちやん人形をお買ひなされ、これはほんの手鞠代と、呉れるに恩を着せねば貰ふ身の有がたくも覺えず、まくはまくは、同級の女生徒二十人に揃ひのごむ鞠を與へしはおろかの事、馴染の筆やに店ざらしの手遊を買しめて、喜ばせし事もあり、さりとは日々夜々の散財此歳この身分にて叶ふべきにあらず、末は何となる身ぞ、兩親ありながら大目に見てあらき詞をかけたる事も無く、樓の主が大切がる樣子も怪しきに、聞けば養女にもあらず親戚にてはもとより無く、姉なる人が身賣りの當時、鑑定に來たりし樓の主が誘ひにまかせ、此地に活計もとむとて親子三人が旅衣、たち出しは此譯、それより奧は何なれや、今は寮のあづかりをして母は遊女の仕立物、父は小格子の書記に成りぬ、此身は遊藝手藝學校にも通はせられて、其ほうは心のまま、半日は姉の部屋、半日は町に遊んで見聞くは三味に太皷にあけ紫のなり形、はじめ藤色絞りの半襟を袷にかけて着て歩るきしに、田舍者いなか者と町内の娘どもに笑はれしを口惜しがりて、三日三夜泣きつづけし事も有しが、今は我れより人々を嘲りて、野暮な姿と打つけの惡まれ口を、言ひ返すものも無く成りぬ。二十日はお祭りなれば心一ぱい面白い事をしてと友達のせがむに、趣向は何なりと各自に工夫して大勢の好い事が好いでは無いか、幾金でもいい私が出すからとて例の通り勘定なしの引受けに、子供中間の女王樣又とあるまじき惠みは大人よりも利きが早く、茶番にしよう、何處のか店を借りて往來から見えるやうにしてと一人が言へば、馬鹿を言へ、夫れよりはお神輿をこしらへてお呉れな、蒲田屋の奧に飾つてあるやうな本當のを、重くても搆はしない、やつちよいやつちよい譯なしだと捩ぢ鉢卷をする男子のそばから、夫れでは私たちが詰らない、皆が騷ぐを見るばかりでは美登利さんだとて面白くはあるまい、何でもお前の好い物におしよと、女の一むれは祭りを拔きに常盤座をと、