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樋口一葉「たけくらべ」25

斯うやつて斯うすると言ひながら急遽しう七分三分に尻端折て、其樣な結ひつけなんぞより是れが爽快だと下駄を脱ぐに、お前跣足になるのか夫れでは氣の毒だと信如困り切るに、好いよ、己れは馴れた事だ信さんなんぞは足の裏が柔らかいから跣足で石ごろ道は歩けない、さあ此れを履いてお出で、と揃へて出す親切さ、人には疫病神のやうに厭はれながらも毛虫眉毛を動かして優しき詞のもれ出るぞをかしき。信さんの下駄は己れが提げて行かう、臺處へ抛り込んで置たら子細はあるまい、さあ履き替へて夫れをお出しと世話をやき、鼻緒の切れしを片手に提げて、それなら信さん行てお出、後刻に學校で逢はうぜの約束、信如は田町の姉のもとへ、長吉は我家の方へと行別れるに思ひの止まる紅入の友仙は可憐しき姿を空しく格子門の外にと止めぬ。

   十四

 此年三の酉まで有りて中一日はつぶれしかど前後の上天氣に大鳥神社の賑ひすさまじく此處をかこつけに檢査場の門より乱れ入る若人達の勢ひとては、天柱くだけ、地維かくるかと思はるる笑ひ聲のどよめき、中之町の通りは俄かに方角の替りしやうに思はれて、角町京町處々のはね橋より、さつさ押せおせと猪牙がかつた言葉に人波を分くる群もあり、河岸の小店の百囀づりより、優にうづ高き大籬の樓上まで、絃歌の聲のさまざまに沸き來るやうな面白さは大方の人おもひ出でて忘れぬ物に思すも有るべし。正太は此日日がけの集めを休ませ貰ひて、三五郎が大頭の店を見舞ふやら、團子屋の背高が愛想氣のない汁粉やを音づれて、何うだ儲けがあるかえと言へば、正さんお前好い處へ來た、我れがこの種なしに成つて最う今からは何を賣らう、直樣煮かけては置いたけれど中途お客は斷れない、何うしような、と相談を懸けられて、智惠無しの奴め大鍋の四邊に夫れッ位無駄がついて居るでは無いか、夫れへ湯を廻して砂糖さへ甘くすれば十人前や二十人は浮いて來よう、何處でも皆な左樣するのだお前の店ばかりではない、何此騷ぎの中で好惡を言ふ物が有らうか、お賣りお賣りと言ひながら先に立つて砂糖の壺を引寄すれば、目ッかちの母親おどろいた顏をして、お前さんは本當に商人に出來て居なさる、恐ろしい智惠者だと賞めるに、何だ此樣な事が智惠者な物か、今横町の潮吹きの處でアンが足りないッて此樣やつたを見て來たので己れの發明では無い、と言ひ捨てて、お前は知らないか美登利さんの居る處を、