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樋口一葉「たけくらべ」15
見よや女子の勢力と言はぬばかり、春秋しらぬ五丁町の賑ひ、送りの提燈いま流行らねど、茶屋が廻女の雪駄のおとに響き通へる歌舞音曲、うかれうかれて入込む人の何を目當と言問はば、赤ゑり赭熊に裲襠の裾ながく、につと笑ふ口元目もと、何處が美いとも申がたけれど華魁衆とて此處にての敬ひ、立はなれては知るによしなし、かかる中にて朝夕を過ごせば、衣の白地の紅に染む事無理ならず、美登利の眼の中に男といふ者さつても怕からず恐ろしからず、女郎といふ者さのみ賤しき勤めとも思はねば、過ぎし故郷を出立の當時ないて姉をば送りしこと夢のやうに思はれて、今日此頃の全盛に父母への孝養うらやましく、お職を徹す姉が身の、憂いの愁らいの數も知らねば、まち人戀ふる鼠なき格子の咒文、別れの背中に手加減の祕密まで、唯おもしろく聞なされて、廓ことばを町にいふまで去りとは恥かしからず思へるも哀なり、年はやうやう數への十四、人形抱いて頬ずりする心は御華族の御姫樣とて變りなけれど、修身の講義、家政學のいくたても學びしは學校にてばかり、誠あけくれ耳に入りしは好いた好かぬの客の風説、仕着せ積み夜具茶屋への行わたり、派手は美事に、かなはぬは見すぼらしく、人事我事分別をいふはまだ早し、幼な心に目の前の花のみはしるく、持まへの負けじ氣性は勝手に馳せ廻りて雲のやうな形をこしらへぬ、氣違ひ街道、寐ぼれ道、朝がへりの殿がた一順すみて朝寐の町も門の箒目青海波をゑがき、打水よきほどに濟みし表町の通りを見渡せば、來るは來るは、萬年町山伏町、新谷町あたりを塒にして、一能一術これも藝人の名はのがれぬ、よかよか飴や輕業師、人形つかひ大神樂、住吉をどりに角兵衞獅子、おもひおもひの扮粧して、縮緬透綾の伊達もあれば、薩摩がすりの洗ひ着に黒襦子の幅狹帶、よき女もあり男もあり、五人七人十人一組の大たむろもあれば、一人淋しき痩せ老爺の破れ三味線かかへて行くもあり、六つ五つなる女の子に赤襷させて、あれは紀の國おどらするも見ゆ、お顧客は廓内に居つづけ客のなぐさみ、女郎の憂さ晴らし、彼處に入る身の生涯やめられぬ得分ありと知られて、來るも來るも此處らの町に細かしき貰ひを心に止めず、裾に海草のいかがはしき乞食さへ門には立たず行過るぞかし、容顏よき女太夫の笠にかくれぬ床しの頬を見せながら、喉自慢、腕自慢、あれ彼の聲を此町には聞かせぬが憎くしと筆やの女房舌うちして言へば、